続きにお話本編。
取り敢えず総司がひどい。
わがままで奔放でそれでも憐れで可哀想なひと。
それ見越したうえで千鶴はきっと最後まで彼を愛したんだと思う。
死ネタではないけどある種それに近い感じで暗くて狂った感じ。
「退屈は嫌いだよ。でもね、非力で脆弱なキミみたいな子はもっと嫌いだよ」
沖田がそう云えば少女はひどく顔を歪ませて泣くのを堪えるのが判っていた。
だから何度でも彼女を傷つける言葉を吐いた。
それでも彼女は下唇を噛みながら、キッと思い詰めたようにわざとらしく微笑んだ。
「でも、私は沖田さんが好きです。意外と私、強いんですよ」
「へえ……?」
「例えどんな沖田さんであっても私は好きですから」
「云い忘れてたけど、僕は嘘吐きで――でも、嘘をつかれるのは嫌いなんだ」
我が儘なのは自他共に自覚がある。
突き放すようなことを云ったところで彼女は怯まず微笑むだけだった。
沖田は内心辟易とするが、心のどこかで嘲笑った節がある。
――それでは何処まで持つ、か。
別に好きでも嫌いでもない少女相手に沖田は様々な無体を強いた。
今までは正直云って邪魔だし、非力で脆弱で如何でも良い存在だった。
いつしか今度は無になった。
何ゆえに自分に執着するのか。
こんなに手酷い惨いことをされても尚、「好きです」と云える少女が不可思議で堪らない。
ゆえに行為は更に熾烈を極めた。
何処まですれば自分を諦めるのか。
いつまでこの関係や行為を続けるのか。
彼女は沖田にとって一人の少女――人間としての個体認識をいつしか失っていた。
それは“玩具”、という名称が正しいように。
「ねぇ。ねぇってば」
「……」
「キミみたいなのが僕に反抗する気?良い根性だよね、もっと手酷くされたいの?」
「…………」
「もっと僕に脅えなよ。もっと泣きそうに堪えながらそれでも僕を求めなよ。もっと、もっと……僕だけに満たされなよ」
「………………」
どれほどの歳月が経ったのか、それさえも判らない。
だが、それはある日突然壊れた。
「冗談はほどほどにしなよ。ねぇ……」
「…………」
「いい加減にしないと僕もそろそろ怒るよ?玩具の分際で思い上がんないでよね」
「……………………」
何度目かの独り言になってしまった沖田は不貞腐れたように溜息をついた。
「……だから嫌いなんだ。非力で脆弱で我が儘で勝手に好きだと振り回して……」
虚ろいだ双眸に色はなく、四肢はだらりと弛緩していた。
とくん、とくん、と力なくも――それでも生きる脈動を働かせる鼓動。
白い肌は似合わぬ鬱血や殺傷痕が違和感を覚えさせるように目立っていた。
時折、痙攣を起こすようにピクピクと僅かに動く肢体。
開いた孔からはドロリとした濁った体液が音なく布を汚していく。
「……ねぇ、壊れちゃったら玩具は傍に置く価値がなくなるんだよ?――――千鶴ちゃん……」
冷えゆく躯を抱き締め、沖田は抑揚もなく呟く。
玩具は使えるからこそ手元に置いて貰えるというのに、壊れてしまったらそれまでだ。
――『例えどんな沖田さんであっても私は好きですから』
嗚呼、何度も紡がれた言葉なのにその音を思い出せない。
幾度となく儚い笑みを見て来たというのにその表情を思い出せない。
失った瞬間に自覚した感情。
「云ったじゃないか、僕は嘘吐きが嫌いだよって……」
一縷の雫が、千鶴の頬に流れ落ちた。
それは、最初で最後の、……。
(その名を呼んでも、もうキミは“こたえない”)
<了>
【後書】
散々僕を好きだと云ったくせに返事を聞かないキミ。
ねぇ――今なら愛を囁いてあげるよ。
だから目を覚まして。
別ジャンルのワンドのアルバロのサイト巡ってて思い付きました。
キャラは違えど似通う部分があると思うんだよね、アルバロと総司。
アルバロ読んでるとひどく歪んだ総司を書きたくなるマジック。
自分の手で壊しておいて、いざという時にはひどく動揺する総司が何とも云えない感じを書きたくて。
衝動的に珍しい作風で挑戦してみました。
ばか、だね……→
2009.11.03/effimero/曼珠
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