今日はバレンタインだ。
街中はバレンタイン一色の雰囲気を醸し出し、日本中の若者の大半はこの行事に参加していると云っても過言ではないだろう。
恋する乙女が意中の男性に想いを込めたチョコレートを贈るのが定番だ。
だがしかし、それは日本の枠組みの中だけであって世界共通では無い。
欧米諸国では寧ろ男性から女性に日頃の感謝や親愛の意味を込めて送ることが一般的である。
「――というわけで、千鶴ちゃんに下着を贈ることにしたんだ。有り難く受け取ってね」
本当に一同に会するのが珍しい光景だった。
キラキラと眩しい笑みで説明する沖田に千鶴は何とコメントするべきか判らず引き攣った顔しか出来なかった。
日頃の感謝をしてくれるのは判る。
欧米風に贈って貰えるなんて有り難い限りだ。
だがしかし、何が嬉しくて異性の――しかも同僚や上司から下着を貰わなければならないのだろう。
「あの……因みに、」
「まさか僕達が恥を忍んでランジェリーショップに足を運んで、真剣に悩んだ末に買って来た千鶴ちゃんの為の贈り物を無碍に却下することなんて無いよね?」
「…………勿論ですよ!」
「だよねー。千鶴ちゃんはそんな酷いことするような子じゃないもんね。だから僕達も日頃の感謝をしているわけだし」
よもや、“拒否権はあるんですか?”と訊こうとしていたなんて口が裂けても云えるはずがなかった。
ダラダラと冷や汗が流れるような気がした。
仕事上がりに呼ばれたミーティングルームには豪華勢揃いの面子が揃っており、四方八方千鶴は囲まれている。
逃げたくても逃げられない。
一人を除き、恐らくは悪意の欠片もなく善意で用意してくれたのだろう。
そんな彼等の好意を無碍に捨て払うことなど千鶴に勇気はない。

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